農業作業息吹/ 160号 | 人と農・自然をつなぐ会





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第160号 2017年10

内なる自然

 あの日から6年と7か月が経とうとしている。私たちの暮らしはどのように変わったか、変えたか、変わらなかったか。
丹精して育てた茶葉から350ベクレル以上ものセシウムが検出された時の混乱と不安、これまで大切に積み上げてきたものが一瞬にして穢され、踏みにじられ、汚染されたことへの憤りと無力感は今でも昨日のことのように鮮明に思い出される。あれから6年と7か月。あの事故を起こした東京電力の柏崎刈羽原発6,7号機について原子力規制委員会は新たな安全対策を講じれば原発の新規制基準に適合するとし、東電の原発で事故後初の再稼働への道を突き進んでいる。喉元過ぎれば熱さを忘れるというが、私たちは当時の「痛み」を忘れつつあるのか。そもそも、あれは本当に自身の「痛み」であったのだろうか。福島第一原発では未だに汚染水問題が生じ、事故収束作業も遅れ、事故の検証も終わっていない。そして、未だに5万7千人以上の人々が故郷を離れ避難生活を強いられている現実を前に、原発の再稼働のニュースはあまりにも今の日本をそして日本人を象徴しているように感じてならない。自分の事でなければ、自分の住む場所でなければ、それで良いのか。
 料理研究家の辰巳芳子さんが著書の中で書かれている言葉が悶々とした私の心に留まったのでその一部をここに抜粋します。
『人は自然を離れると、予想以上のものを失います。それは人間が自然そのものであるからでしょう。それかこれか、私は都会暮らしをなさるかたに、かえって仕込みものを少しずつでもなさることをおすすめしたい気がしてなりません。(中略)それは都会の真ん中で人々が掌中に収めうる、確かな自然の一つといえるのではないでしょうか。(中略)年々、繰り返しお作りになる意味は思うより深いかと感じます。』
秋になり、今年も茶樹が白と黄色のかわいらしい花を咲かせている。葉の間をよく見ると孵化したばかりの無数の子グモたちが今にも巣から旅立とうとしている。春先には数ミリにも満たないほどだったカマキリは立派に成長し茶葉の上を獲物を探して歩きまわる。畑の横の栗の樹には大粒の栗がたわわに実り、栗拾いは2歳半になる息子の毎日の楽しみとなっている。夜にはイノシシの子が栗を食べにやって来たところを、我が家の犬が仕留めて既に4匹のウリボウを捕獲した。自然の中に身を置くとは人間以外の多くの生き物たちと隣り合わせで生き、自らもその一部であると実感させられる。私たち人間は遠い祖先の時代から自然のサイクルの中で生き毎年季節になれば旬のものを収穫し、加工し、食べるという行為を繰り返し繰り返し行ってきた。そしてそれは遺伝子の中に組み込まれ心身を形成しているということが今年のノーベル医学賞を「植物、動物、そして人間がどのように生物学的リズムを順応させ、地球の変化に同期しているのか」というテーマで研究し体内時計をつかさどる遺伝子を特定した米国人科学者3名によって検証されている。
自然から離れるということは自らに内在する自然とも離れるということに他ならない。放射能、農薬、食品添加物など「ただちに健康に影響はない」ものに囲まれて生きるようになって久しい。もう一度、内なる自然を取り戻すことが、自らの命のみならず他の命への想像力も取り戻すことになるのではないだろうか。それは辰巳芳子さんが仰るように食べものと向き合うというシンプルなことから始められるほど簡単なことなのだと思う。そして私たち百姓の仕事は食べものを通してその向こう側に広がる自然や農村を伝え守ること。それが未来を生きる子どもたちへの贈り物だと思う。
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